山水に遊ぶ

東京・府中市美術館で開催されている「山水に遊ぶ―江戸絵画の風景250年」展を見てきました。

山水画」というと、なんとなく中国風の岩山が切り立った風景で霞がかかっている感じの水墨画を想像しがちですが、江戸時代以前に「山水」と言えば、自然の景色を指す言葉だったそうです。この展覧会では江戸時代の「山水」を描いた風景画が展示されています。

まずユニークだと思ったのは展示の構成。年代順・作家順ではなく「山水に暮らす」「絵をつくること」「奇のかたち」「ロマンティシズムの風景」というテーマごとにまとめられています。

絵を順々に眺めておしまい、ではなく、鑑賞者には数々の視点が与えられ、それにそって絵を味わうことができるよう工夫されています。たとえば、同じ構図の富士山の絵がいくつか並べられていて、それらはみな雪舟の描いた富士山の構図を踏襲したものだそう(雪舟の絵は現存しない)。同じ構図を用いても描く人間によって表現されるイメージは様々で、それぞれの違いが浮き彫りになるところが実に興味深いのです。

富士山に登頂し、その記録を残した小泉斐の「富岳写真」では頂上の様子がいろんな角度から詳しく描かれています。登山がまだ娯楽ではなかった時代、どういうところに画家の興味があったのかがわかるのもおもしろいところ。

展示の目玉の一つである、曾我蕭白の「月夜山水図屏風」は見事。

奇抜な絵がクローズアップされることの多い蕭白ですが、この絵では細部まで丹念に描かれ、金泥を効果的に用いて、この世のものではないような、幻想的な風景を展開して見せてくれます。

その他、西洋の遠近法や油彩を使った作品が多く展示されていました。

情報の少ない江戸時代にあって、西洋絵画をどん欲に研究し、新たな手法を取り入れていった当時の画家たちのチャレンジ精神が見て取れました。

これらの絵をじっくり眺めていると、画家たちが風景を眺め、頭の中で像として結んだ光景の中に自分が入り込んだような気分になります。一つひとつの絵は、その光景へ入っていくための窓だったのかもしれません?!

「山水に遊ぶ」というタイトルがまさにぴったりで、見応えのある展覧会でした。

「山水に遊ぶ―江戸絵画の風景250年」展は5/10まで。

http://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/index.html